リスク&リターンを度外視するテクニック
リスク&リターンの話
2012年CEDECの桜井氏の基調講演である「あなたはなぜゲームを作るのか」の中で「ゲーム性とはリスクとリターンである」という内容の話があったことはあまりにも有名です。
「リスクが上がれば上がるほど得られるリターンは上がっていく」というのが基本的なルールですが、それを度外視することによって得られるものもありますというお話です。
リスクとリターンの関係
本題に入るまえに、リスクとリターンの関係を実例を踏まえておさらいします。
リスクとリターンの関係は徐々に上がっていくものであって、それが中途半端な位置に入っていると攻略要素の低下や理不尽に繋がり面白くありません。
例えばタイミングよくボタンを押すだけのゲームでも、正解のタイミングに近づいてくればくるほど「GOOD → GREAT → PERFECT!!! → BAD」と評価が変化します。
(細かい話をすると音ゲーならPERFECTの後にもGOODやGREATのタイミングがありますが、前半の猶予フレームより短い方が健全です)
これは最大リターンのPERFECTのすぐ後にBADあることが重要で、最大のリターンを取れる行為の裏側は最大のリスクであるということです。
例えばBADがGOODとGREATの間にあると、ゲームは途端につまらないものなりそうです、想像できますね?
実例
DARK SOULS
アクションRPGの傑作であるダークソウルシリーズには「パリィ」という技があります。
簡単に説明すると敵の攻撃を弾くことで、最大反撃を入れることができる技です。
▲『DARK SOULS』のパリィによる反撃
「パリィ」はシステム的にはとても強く高威力のダメージを与えることができます。
ですが、失敗すると、自分が一定時間無防備になってしまいます。
タイミングはシビアで、上級者向けのアクションといえるでしょう。
これがアクションゲームにおける正統派のリスクとリターンです。
リスク&リターンの度外視とは
今回の本題です。
これらをぶち壊すことで作品を面白くできることもあるので紹介させてください。
『ベヨネッタ』というアクションゲームはプレイしたことがあるでしょうか。
ゲームが苦手な方でもいろんなボタンを押しているだけで多彩な技を繰り出すことができ、非常に爽快感を感じることができるゲームです。
つまり、初心者でも楽しめるように設計されたアクションゲームということですね。
そのようなゲームに先述の「パリィ」というシステムを最大リターンとして組み込んでしまうと、初心者が楽しむことは難しそうです。
では『ベヨネッタ』の「最大リターン」はどこにあるのでしょう?
リスク&リターンの常識を覆す「ウィッチタイム」
「パリィ」に近しいシステムとして『ベヨネッタ』には「ウィッチタイム」というシステムがあります。
▲『ベヨネッタ』のウィッチタイム発動中
いわゆる回避技で、敵の攻撃をギリギリで避けることによってしばらく敵の行動をスローにして自分が好きな技を相手に叩き込むことができます。
これだけ聞くと「パリィ」と似たようなものですね。
並のゲームであれば、やっぱり「ウィッチタイム」発動のトリガーである「回避」にはそれ相応のリスクを付けるものでしょう。
ですが、そこに工夫の余地が残されてました。
なんとウィッチタイム発動のトリガーとなるこの「回避」、連打できます。
これはここまで話してきたリスク&リターンの関係性を明らかに度外視しています。
回避することにほとんどリスクがないので、回避連打しながらたまーにいいタイミングで回避が入ってウィッチタイム発動!ということがよく起きます。
何故それが許されるのかというと『ベヨネッタ』が「初心者が気持ちよくアクションできること」をコンセプトとしてるからではないでしょうか。
もちろん上級者向けの奥が深い部分も用意されています。
アクション自体が気持ち良いので、それにはまって「次はもっとうまく」とステップアップできるわけですね。
ウィッチタイムは本作でもとても気持ちが良い部分ですから、これをアクションが上手くないと発動しない設計にしてしまうのは非常にもったいないです。
「初心者だから最初は難しい」ではなく「初心者だけど最初からうまくできる」ように設計されたシステムです。
私自身アクションゲームはそんなに得意ではなかったのですが、『ベヨネッタ』というタイトルはアクションゲームを好きになるきっかけになったタイトルでした。
まとめ
以上、リスク&リターンを度外視するテクニックでした。
参考になったでしょうか。
今回の実例はアクションゲームでしたが、対人戦のゲームではこうはいきません。
リスク&リターンを無視してしまうと、ひたすらそれだけをしていればいい行動が生まれてバランスが崩壊してしまうからです。
対人戦のゲームにはリスク&リターンの基本を守った公平さが求められます。
なので、対戦格闘ゲームなどでは今回の「ウィッチタイム」のようなシステムは見られないですが、そういった部分は逆にアイデアのチャンスではないかと思います。
ひょっとしたら「初心者でもできるめちゃくちゃ気持ち良い格闘ゲーム」が生み出せてしまうかもしれませんよね?
ゲーム制作には時としてルールを破る力も必要です、そんなお話でした。